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アポロニア21 編集長コラム


 5月

 最近、「予約制なのに待ち時間が生じることがある。患者さんにどこで待ってもらうのがよいか」という話題で、多くの先生方とお話しする機会がありました。
 中には「駐車場の車の中で待ってもらう」という先生もいました。私の経験上、最悪なのは「個室でユニット上に寝かされて放っておかれる」というものでした。一人で残される時間は、医療者側が思っている以上に長く感じるもの。医科診療所では、診療室に呼ばれる患者さんをいったん中待合に導入するというシステムがありますが、これもあまり気持ちの良いものではありません。
 「待合室で待たせず、早くユニットに」という医院は、待ち時間を待合室での時間とだけ考えているのかもしれません。しかし、せっかくの待合室ですから、そこで待つのが私としては最も気が楽です。
 待合室の椅子は、あまりにフカフカのソファーだと、「ユニットよりも快適なため、治療を苦痛に感じやすくなる」「高齢者が立ち上がりにくい」などのマイナス面があるため、あまり軟らかくない素材の椅子が望ましいようです。
 置いてある本、流している映像なども医院のセンスを感じさせますが、「待合室は患者教育の場」と意気込んで、歯科関係の書籍が並べられているのには気が重くなることがあります。歯科とはあまり関係ないものの、健康に関する見やすい書籍あたりが無難ではないでしょうか。古いマンガ雑誌、院長の読み古しの車雑誌などがヨレヨレの状態で置いてあるのは論外だと思います。
 映像については、地域によってかなり特色があるようです。キレイな環境映像を流している医院も多くなりましたが、大阪・下町の歯科医院では、野球中継を流していました。しかし、観戦に夢中になった患者さんは、診療室に呼ばれると「今いいところだから後にしてくれ!」。もはや何のための待合室だか分かりませんが、何となく医院の雰囲気が温かく感じました。
 「ここは良い医院だ」と実感してもらうためには、待合室とトイレは予想以上に重要です。自院がターゲットとする患者層を選別する機能すら持っているといえるでしょう。あまりコストをかけなくてもいいですから、個性を生かした工夫を凝らしてみてはいかがでしょうか。(水谷)

(2012年5月号掲載)

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 4月

 世界のフィルムメーカーを代表するアメリカ・イーストマンコダック社が経営破たんしました。自ら開発したデジタルカメラ技術によって経営環境が悪化してしまったのが原因とされていますが、コダックはこれまでの歴史でも結構、似たようなことをしてきたようです。
 例えば、現在でも販売されているレンズ付きフィルムのオリジナルは戦前のコダックであり、100枚撮影してカメラごとラボに送ると現像してくれ、ユーザーには出来上がった写真とともに、新しいフィルム入りカメラが送られてくるというシステムでした。しかし、自ら開発したパトローネ入り35㎜フィルムによってその意味を失い、結局、撤退しています。
 戦後も、ディスク判やAPSといった新バージョンのフィルムを次々に出しましたが、カメラメーカーとしては弱小化してしまった後で、結局あまり普及しないままになっています。
 自分の首を絞める開発をしてしまうところがコダックらしいといえますが、主要販売品ではなかったカメラ、レンズ分野では、極めて優秀な製品を発売。ドイツ製、日本製カメラに対抗しました。戦前には、世界最高性能を誇った『エクトラ』が登場。距離計やエクターレンズの性能の高さ、撮影途中でフィルムを交換できるシステムなどが高く評価されました。
 ほとんどの国でライカのコピーを作ることにやっきになっていた時期に、全くコンセプトの異なるカメラを出せたのは、当時のアメリカの豊かさがなせる技とされています。同時に、ドイツのナーゲル社を買収して作った比較的安価な『レチナ』シリーズは、戦後にも通じるロングセラー品として多くのファンを生みました。
 歯科関連では、長らくレントゲン関連品を供給し、近年では撮像範囲(FOV)が広い歯科用CTを得意としていました。CTは、アメリカのデンタルショーではアメリカ製品としては珍しい高付加価値品だったのですが、今年のミッドウィンターミーティングでは韓国製が中心となりつつあります。一方、地元企業ブースでは、高付加価値品ではなく、スマートフォンやタブレットPCで使える患者説明用のアプリを多数紹介していました。これも時代の変化というものでしょうか。(水谷)

(2012年4月号掲載)

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 3月

 室町時代後期の公家、一条兼良によって編纂された『尺素往来』には、牛黄、白花蛯、脳麝円、沈麝円、牛黄円、麝香丸、兎糸円、阿伽陀薬、蝋薬などの薬名を挙げ、「当世(最近)の人々、これらを得て貯えないことを恥辱とすべきなり」と述べています。後にスペインやポルトガルの宣教師たちが、「日本人は薬好き」という報告を送っていることからも、中世日本の、特に都市住民にとっては、薬は珍重される消費財であったのだと推察されます。
 西ヨーロッパで薬文化が華やかになったのは、それから200年後のこと。多くが「東洋風植物シロップ」などと名付けられ、オリエンタリズム満載の名前と効能、そしておそらくは風味で人々の常備品となっていきました。とりわけ、アジア、アメリカ大陸に植民地を展開するイギリスはその代表格で、上層に属する貴族やジェントリだけでなく、労働者階層の間にも、何らかの薬が流通していたとされています。
 かく言う私も、何かにつけて薬を服用しています。妻からは「製薬業界にのせられすぎ」などと言われますが、近所のドラッグストアの「ポイント5倍デー」なるものにもうまくのせられている気がします。これは、3000円以上買うとポイントが5倍となり、ポイントが一定以上たまるとお買い物券が発行される仕組みですが、ドラッグストアで3000円の買い物というのは意外に大変です。
 そこで、大して要りもしないビタミン剤や風邪薬などを買い込むことになるのです。さまざまな薬を飲む姿を揶揄されると、「今日も元気だ、薬がうまい!」などと言って切り返すことにしていますが、もちろん、あまり身体に良い習慣ではないでしょう。  ビタミン剤やサプリメントなどを常習的に服用するよりも、何らかの形で身体を動かした方がよほど良く、酒などを控えるという引き算の健康法がさらに望ましいということは分かってはいるのですが……。
 今回の特集では、歯科医療の領域を拡大するためのアイデアについて、さまざまな方面から考察を加えました。法的に見れば日本の歯科医師は業務範囲がとても広いのですが、なぜか閉塞感が拭えません。それを打破するためには、全く新しいものの見方が必要なのではないでしょうか。(水谷)

(2012年3月号掲載)

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 2月

 以前、「繁華街から暴力団を一斉に追い出したところ、その後、もっと怖い海外のマフィアが入ってきて、余計に危険な街になってしまった」と聞いたことがあります。短視眼的にその場の秩序を保とうとしても、かえって逆効果になるということでしょうか。中には、これを熱力学的に解釈して、「エントロピー増大の法則」によるものであると説明している識者もいます。
 人間の口腔内も同じことで、私自身、いわゆる「除菌療法」を試したところ、その後2カ月ほどしてカンジダが多く発生してしまったことが分かりました。それ以来、その種の治療法に関する話については眉につばを付けて聞くことにしています。
 考えてみれば、電子顕微鏡像で見る歯、特にエナメル小柱がきっちりと秩序立って並んでいるエナメル質は驚くべき存在です。この秩序は、非常に微妙なバランスの下でしか成り立たないのではないかと感じます。エントロピー増大の法則とは、一方の秩序を保つために他方に無秩序が存在するという原理ですから、口腔内に500種類から存在するという菌叢を、あまり人間の浅知恵でいじらない方がよいのではないかとも考えられます。
 今回の特集では、その秩序が完全に崩壊してしまった人々の口腔内について、社会的に考察を加える企画を考えました。私自身は、必ずしもこれらの人々が「格差社会の被害者」だと一面的に捉えるべきでないと思っています。なぜなら、これらの人々の多くが、重症のむし歯や歯列の崩壊を「病気」と認識していないという事実があるからです。  これは歯科に限ったことではなく、時代とともに保険病名が急速に増える一方で、ある社会的状態の人々の間では、「病気」と自己認識する幅が非常に狭くなっているのです。そのため、薬の過剰投与が社会的問題になる一方で、ある人々は重症化してしまう。これが健康の二極化というものなのだと考えます。
 薬の過剰投与を受けている人の中には生活保護受給者も多いことから、これを完全に貧困・格差によるものとはいえないと思うのです。むしろ社会保障制度のゆがみによるもので、貧困をなくすよりも是正が容易なのではないかと考えています。皆様はどうお感じになるでしょうか。(水谷)

(2012年2月号掲載)

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 1月

 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。2011年を振り返ると、東日本大震災とそれに伴う原発事故、そして北アフリカのイスラム諸国に吹き荒れた「自由主義化」の嵐とギリシャなどの経済危機など、激動に見舞われた1年でした。
 チュニジア、エジプト、リビア、そしてシリアへと波及した動乱とギリシャ政府の財政破綻は、本を正せば中世の東ローマ帝国の領域内で起こったといえるかもしれません。この国は、無論、キリスト教の正教文化圏に属していましたが、その後のイスラム社会の基層文化に多大な影響を与えたのではないかと感じる時があります。
 その第一の理由として、東ローマ帝国で歌われた聖歌の旋律は、イスラム教儀式典礼の響きとかなりの共通点を持っているように思われます。ずしっと腹に届くというか、重厚で、その場の空間を切り取って整然と幾何学的に配置し直したような感覚を覚えます。この東ローマ帝国の聖歌を忠実に復原した音源を時々聴いているのですが、「こういう音環境にある国はなかなか変化しないだろうな」と感じます。
 しかし、昨年は、そういう「動かない国」から世界に向けて巨大な鳴動が起こったことになります。そのことの歴史的意味は、新聞などで報道されているよりもはるかに重いのではないかと考えています。
 かつて、東ローマ帝国の崩壊に伴うオスマントルコの「帝国化」は、結果的にヨーロッパ社会に「近代」をもたらしました。また、この時、正教世界の秩序がいったん崩壊したために、黒海沿岸からバルカン半島にかけての地域は、21世紀に至るまで「世界の火種」として残されてしまいました。
 一方、遠く離れた日本は、周辺地域の経済圏とはほとんど無縁の環太平洋という巨大な経済ブロックに入る可能性を模索し始めています。しかし、旧東ローマ帝国版図で起こったこの大きな変化からは、おそらく無縁ではいられないのではないでしょうか。どのような変化が世界に起こるのか注目したいと思います。
 今回、TPPと対峙する台湾、中国のいわゆる「華僑ネットワーク」についてレポートを掲載しました。ご一読いただければ幸いです。(水谷)

(2012年1月号掲載)

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