アポロニア21
編集長コラム2020

3月号

今回の特集で、摂食障害をう蝕傾向などからスクリーニングして、正しく対処するよう呼び掛ける記事を掲載しました。

この中で重要だと感じたのは、アメを頻繁に舐めているせいでう蝕が多く発生していたとしても、摂食障害が疑われる場合、安易に「キシリトール使用製品に代えてむし歯を予防しましょう」などと指導してはならない、という点です。

アメの糖分でかろうじて生きている人もいるという事実は驚きでした。「むし歯予防」という歯科の観点だけでは、患者さんの命に関わることもあるのです。

 頻繁な砂糖摂取が生きるために必要だったのは、19世紀イギリスの工場労働者も同じ。「世界システム論」という立場の研究によれば、食間に「ティーブレイク」を入れる習慣は、お茶やお菓子の砂糖で最低限のカロリーを短時間で補給し、カフェインで目を覚ますためだったとされています。優雅な習慣に見えるティーブレイクは、元祖ブラック企業の経営術だったのです。

元は貴族やジェントリの間で行われていたお茶の習慣が、常識ではあり得ないほどの速度で貧困層にも広がったのは、産業革命の副産物だったということです。東洋からもたらされたお茶と、アメリカ大陸からの砂糖が、ギリギリで働く労働者たちを支えていたのは、当時、世界帝国だったイギリスでしか見られない現象だったといえます。

アメリカ合衆国が18世紀にイギリスから独立した際、大量のお茶を海に廃棄して、その後も「コーヒーブレイク」にこだわったのは、お茶の隠れた役割を知っていたためかもしれません。  新型コロナウイルスの流行が広がっています。厚生労働省では、エアロゾルでの感染が危惧されると注意喚起していますが、歯科はエアロゾルが極めて発生しやすい上、密閉状態の機械室でコンプレッサーを稼動させている医院も少なくありません。さらに、日本は中国などよりもゴーグル着用などのエアロゾル対策が定着していないとされ、こうした未知の感染症への脆弱さが懸念されるところです。

今月号のレポートを参考にいただければ幸いです。

(水谷)
2月号

 2月18日から21日にかけて、イランの首都・テヘランで第18回イラン顎口腔外科国際大会が開催されます。デンタルショーも併催される予定ですが、「予定通り開催されるといいのだが……」と不安になりました。

 イランは、ペルシャと呼ばれた古代以来、西アジアを代表する大国。良質なドライフルーツの産地でもありますが、昨年末からアメリカとの戦争が起こるのではないかと懸念されています。  国際大会のSaeed Nezafati実行委員長によれば、現在のイランでは、再生医療を含めた審美歯科、低侵襲外科治療の分野が注目を集めているのだそうで、大会のメインテーマにも低侵襲が掲げられています。

同じ日程で、ペルシャ湾岸地域のインプラントに関する国際シンポジウムも予定。海外講演者としてイタリア、インドなどから専門医を招き、サイナスリフトの最新術式をはじめとする講演が企画されています。  
 もちろん、国際情勢がここまで急変すると考えられなかった時期に検討された企画だと思いますが、これから超大国と戦争になるかもしれない、という緊迫感は感じられません。  国際的な緊張状態が理由で配慮したのか、それとも普段からイランではそういうものなのか。通常、この種のイベントで派手に掲示されることが多い協賛企業のロゴが、大会のホームページには全く見当たりません。また、1月にサウジアラビアで、2月にはUAEでと、中東では同じ時期に審美歯科やインプラントの国際大会が続くため、この企画自体、どこまで盛況が期待できるのかも不明です。
 そのため、日本メーカーがこのイラン国際デンタルショーに出展するのかどうか、今の段階では分かりませんが、状況が沈静化して、つつがなく開催されることを願っています。

 今回の特集では、「時短・効率アップ」をテーマにさまざまな分野から話題を集めました。切削量を最小限に抑える低侵襲のう蝕治療、脳の活動の日内変動を考慮した時間割、診療効率を上げるための医院デザインなどを取り上げております。編集部の仕事の効率化につながった記事もありますので、先生方の日々の診療や医院経営の参考にしていただければ幸いです。

(水谷)
1月号

 あけましておめでとうございます。このところ、さまざまな「都市伝説」が科学的に再検討される流れがあり、オリンピックイヤーとなる今年も、検証が進みそうです。  身近なものでは、「床に落ちた食べ物は3秒以内に食べれば大丈夫」「グラスの形で飲酒のペースが変わる」「ネクタイは身体に良くない」といった噂がありますが、これらを検証した研究も存在します。
 内科医の倉原優氏の『本当にあった医学論文』(2014年、中外医学社)に収載された海外の論文で、次のようなことが実証されています。

  • •床に落下した直後は、雑菌が最も食べ物の方に移動している
  • •飲み口が大きく底が小さいグラスの方が、飲酒のペースが落ちる
  • •ネクタイをきつく締めると血管反応性が低下する

中には、国際的に権威が認められている雑誌に掲載された研究もあり、世界中で「都市伝説」の実証的な批判に取り組んできたことがうかがえます。

 さて、この度、歯科界の諸問題に長年切り込んできた「安田登編集室」、久保寺司先生によるデンタルショーレポート、私の大阪歯科大学での講義内容をまとめた書籍『歯科医療のシステムと経済』を上梓しました。  
 第1章では、「医療は18世紀にお金で買える商品になったことで発展した」というところから説き起こし、「歯科は医科から排除されている」「保険診療では十分な治療ができない」「高齢化で社会保障が立ち行かない」などの「都市伝説」を再検討しています。検証の時代にマッチした内容になったと自負しています。ご一読いただければ幸いです。
 本誌も、「定説といわれていることは本当なのか?」という検証の気持ちを大切にしながら、誌面作りをしていこうと思っております。  
 今回の特集では、歯科技工所、電子カルテメーカーなど、医院の外部のノウハウを生かす取り組みを紹介しました。多数の取引先を見ているラボやディーラー、メーカーには「繁盛医院」になるためのコツが蓄積されているので、ぜひその知識をご活用いただければ幸いです。

(水谷)