先日、大学院の授業を担当させていただいている中で、「公的医療システムの財源として、税金を中心にする国と、社会保険料を中心にする国がある」という話題を扱いました。その際、「ところで、税金と年貢の違いは何ですか?」と学生に質問したのですが、そもそも自分自身、明確な答えを持っていないのではないか、と青くなりました。
教科書的には、「税金は納税者から政府が預かったもので、何のために支出するかの透明性が不可欠。また、お金持ちから貧しい人への所得の再分配の役割も果たす」ということになり、そうした要件を備えていない「一方通行の徴収」が年貢だと説明されます。
医療制度の財源の説明には、これで十分なのではないかと思いますが、ヨーロッパでは、医療制度などの財源となる税金は、もっと分かりにくく深いもののようです。
例えば、信条・宗教の自由が保証される近代になっても、地元の教会の維持費をまかなう教会税は、20世紀半ばまで西ヨーロッパ全土で見られ、今でもドイツ、スイスなどに残っています。これは、福祉事業を長く教会が担ってきたためとされています。
日本ではリベラルな政党ほど減税を主張しますが、ヨーロッパでは逆。むしろ、福祉の充実を訴える政治勢力の方が、その財源確保のため「チョコレート税」「ベーコン税」などを提案したりしています。減税と福祉の充実を同時に訴える意見をリベラルだと見なす日本は、ある意味、年貢を軽くして民衆に施すという「仁政」の観念が残っているといえるかもしれません。なかなか社会の仕組みが変わらないのは、こうした感覚的なところに理由があるのでしょうか。
今号と次号の特集では、人材確保が難しい時代に、①人の代わりにデジタルツールを活用、②一人一人のスタッフの能力を最大化、③できるだけ辞めない医院づくりという方向性でアイデアを集めました。厳しい時代だからこそ、思わぬ工夫が思い浮かぶこともある、ということかもしれません。
(水谷)