編集長コラム 2021年4月号

日本では、コロナ禍の影響による患者減が昨年4月を中心に起こりました。東京歯科保険医協会の調査によると、都内では94%の歯科医院が患者減となったということです。しかし、6月以降は堅調な回復が見られ、政府の緊急融資や補助金などの効果もあり、コロナ禍によって経営難が続く歯科医院は、現在、それほど多くないと見られています。

一方、医療システムが異なり、COVID–19そのものの被害も大きかった地域では状況が違います。イギリスでは、1月1日より「患者数を前年比の45%以上にせよ」という指針が施行され、36%未満だった場合には罰金の対象となりました。

同国は、今年に入っても感染拡大が収まっていないこともあり、76%以上の歯科医院がキャンセル増加を経験しているとのことですが、なぜ罰則付きで患者数の回復を義務化しなければならなかったのでしょうか。

イギリスを含め、租税を主な財源として運営される国営医療(NHS)のシステムでは、各医療機関の運営原資は予算制となるのが一般的。そのため、患者数が回復しなければ、次年度の予算には影響するものの、今すぐ経営難になるという事態は起こらない仕組みで、現場の危機感が希薄なのです。

患者数の回復が義務化されたことで現場は大混乱。歯科国際誌『Dental Tribune』(2月17日)は、「むし歯治療などより、確実にアポを埋められる健診とクリーニングを優先させろ」と傘下医院に指示した大手法人の話を紹介しています。

昨年は「不要不急の歯科治療はやめよう」と、健診やクリーニングを延期するようNHS当局も勧告していたのですから、180度方向転換です。医療制度の違いが、コロナ禍での医院運営にも現れた例だといえるかもしれません。

今月の特集では、長期的なチーム作りという観点から、スタッフの採用や教育についての話題を取り上げました。その中で、「コロナと経営の話題は、今や書籍も動画も注目されにくい」という指摘を受けました。歯科経営誌として、なかなか耳の痛い話でしたが、逆に、発信される情報量が多過ぎて、その取捨選択が難しくなっているという背景もうかがえます。皆さまは、どうお感じでしょうか。

(水谷)