編集長コラム 2021年6月号

コロナ禍で、日本社会のさまざまな脆弱性が指摘されるようになりました。医療分野では、「検査体制などのデジタルインフラが未整備」「感染症病床、医師が足りない」「ワクチン獲得競争に敗戦」などなど。

これらは一般的に、日本が諸外国に比べて遅れているためだと説明されます。「遅れている」というのは、日本もその方向に向かって進んでいることが前提ですが、実際にはそうとも言えず、現在の日本の姿は、人々が意図的に選んできたといえる面も多いように感じます。

例えば「日本の労働生産性は低い。賃金も低過ぎる」などの批判が産業界からも出ていますが、これは90年代に「海外への生産拠点の移転により、日本の産業が空洞化する」という懸念への対応として、賃金水準を抑えたのが理由と考えられます。短期的に見れば、この政策が一つの模範解答だったから広がったのでしょう。

医師不足については、1992年に厚生省健康政策局長が大蔵省主計局主計官(いずれも当時)宛に出した資料によると、医師需給の将来像が歯科医師のそれとほぼ同じ文脈で解釈され、国家試験合格者抑制、入学定員削減、定年制導入、免許更新制が対策として提示されています。

高齢化社会を前にして、むしろ医療需要が増大・高度化すると見られていたにもかかわらず、そうした側面は、医師数の長期予測には反映されなかったことになります。以前からの小さな判断の積み重ねが、現在の状況につながっているのです。歯科技工が危機的状況にあるとされていますが、「安く入手できるなら」と見逃されてきたラボ間のダンピング競争について、どこかで原点に立ち戻って考える必要があるのではないでしょうか。

今回の特集では、健康づくりに貢献する歯科医療の新たな動きを追いました。何もせずにそこにいるだけで健康になるという、「ゼロ次予防」の考え方も紹介しています。ご参考になれば幸いです。

(水谷)