編集長コラム 2021年10月号

今年の歯科界で一番ホットな話題といえば、歯髄再生療法の適応拡大ではないかと思います。これまでの不可逆性歯髄炎に加え、根管治療後の歯や感染根管まで再生治療の対象となり、この治療法の専門医療機関である「RD歯科クリニック」(神戸市中央区 中島美砂子院長)を中心に、愛知、大阪、福岡で3カ所の歯科医院が運用を開始しています。

年齢制限も大幅に緩和されて小児の乳歯も対象となったことから、今後、歯髄再生が主要な歯科治療のオプションとして成長していくと期待されます。

これまで、「自然治癒しない」「失活歯は長持ちしない」ということが、予防の重要性を訴える際の、悪くいえば脅し文句として機能してきましたが、歯髄再生によって失活歯の機能を取り戻せるようになります。このことが、歯科医療と患者さんとの関係を変えるきっかけになるかもしれません。

以前から、再生医療の社会的リスクとして、「悪くなったら取り換えればいい」と、健康行動を諦める人が増えるのではないかという懸念が指摘されています。今後、さらに幅広い分野に再生医療が活用されるようになると、予防の呼びかけが説得力を失うことも考えられます。

今回の特集で、「1.5次予防グッズ」によって予防へのインセンティブを喚起する戦略を推進中の竹山旭先生にインタビューした際、大学院生時代、唾液腺再生に取り組んだお話を伺いました。唾液は口腔の健康にとって重要なので、唾液腺の機能を維持・再生する医療で口腔内のたいていの病気を予防できると考えたとのことですが、ある時、「カリオロジー、ペリオドントロジーは、もっと単純明快な予防戦略を打ち出している」と気付いたとのこと。

最先端の技術開発も魅力ですが、地道に患者さんの「やる気」を引き出していく取り組みも、歯科医療を楽しいものにしているのだなと感じました。ご一読いただければ幸いです。

(水谷)